女の敵は女
オトコを飼い殺し、食い散らかし、骨すら拾わないオンナは存在する。何人の仲間が夢半ばで散っていっただろうか。歳が若い者ほど先に戦場を去っていった。そのほとんどは惨殺され、一握りの者だけが故郷へ帰還していった。 …ここは冷たい塹壕の中。確かに、ヤバイオンナ、通称「ヤバ女」との戦い、死闘は凄まじく、そして熱かった。オトコとして「生きている!」という実感を生まれて初めて手にした。戦場を駆け抜ける自分自身を誇らしげに眺めていたのかもしれない。どんなにヤバ女からの攻撃や災いが訪れたとしても、時折与えられるヤバ女からの食糧に、ヤバ女の容姿に、苦痛を忘れさせる微笑みに、俺たちは救われた。同時に底なし沼に堕ちていく自分を冷静に見てもいた。気づけば財布もカラにされ、仕事も友人関係も引き裂かれ、大切な心すらボロボロに踏み躙られていた。それでもオトコ達は戦場に帰っていく。一度知ってしまった「熱」を再び求め。この塹壕に集う仲間も、飢えと寒さから再び戦場に走り出ていってしまう。いくら止めても彼らは聞こうとしない。彼らは「熱」に侵されているのだ。誰もが手にできる武器など、あの敵には何の役にも立たないというのに、玉砕覚悟で特攻していく勇士達。止める為に叫び続けた声ももはや枯れた。ある日、塹壕で出会った仲間の老兵士からこんな話を聞いた。
それは「ヤバ女」との戦闘記録、そして正体に関する衝撃的なモノだった。「ヤバ女」は自身の戦闘能力の高さを理解している。その殺傷能力の高さも。「ヤバ女」の容姿は恐ろしいほどに可愛く、美しい場合が多い。容姿は普通の「ヤバ女」タイプは、泣きたくなる程の「優しさ」「包容力」を持っている。「容姿」と「性格」、この二つは「エサ」、獲物を掴まえる為の「擬態」。この二つに吸い寄せられた者を一網打尽にするのだ。そして獲物を捕えた後、3ヶ月から半年後が過ぎた頃から「ヤバ女」の真の生態は噴き出し始める。「借金」「浮気」「虚偽」だけでなく、オンナとも思えない荒々しさ、「暴言」や「暴力」、そしてオトコの全てを「否定」してくる。ここから戦いが始まるのだ。それは「ヤバ女」からの攻撃を避けるだけではない。
交際前の「ヤバ女」の姿から「いや、本当の彼女はそうではないはずだ!」という自己の想いとの戦いでもあるのだ。しかしオトコの想いが正しい事も、オトコの想いが叶って「ヤバ女」が変化する事も有り得ない。「ヤバ女」との戦いに、停戦も終戦もないのだ。終えるには戦場からの「逃走」、永遠の「死」だけだ。老兵士は呟いた。「しかし、ヤバ女共を俺たちは本当に否定できるのかい?」と。彼は言った。「ヤバ女」を好む者、求めたオトコは、実は「ヤバ女」と同じ想いを心の中に抱えていたのではないか?だからこそ惹かれるのではないか?と。その話を聞いた時は、正直彼の言う事は信じられなかった。そんな訳はないと、「敵なんだ!」と叫びたかった。しかし老兵士が塹壕から抜け出し、長年敵対していたライバル、宿縁とも言える「ヤバ女」と結婚した光景を見て、塹壕に残った俺達は思い出した。「ヤバ女」は常に深い「理解」を求めていた事を。現代社会ではありえない程の「不幸」と「寂しさ」を抱えていた事を。彼女達を救う事、それは憧れた漫画や映画のヒーローに俺達でもなれるんでは?と思えたからこそ、俺達は「彼女達」に近づいた。俺達の心の中に「ヤバ女」がいたのだ。僕らもまた他者の「理解」を求め、「寂しさ」を抱えていたからこそ「ヤバ女」に行き着いたのだ。そうだ、あの敵の正体は「俺達自身」だったのだ!外ではまだ戦闘が続いている。しかし、悲しいかな、そろそろ疼いてきている様だ。俺達はあの「熱」に侵されている。もう、変えられないんだ。敵の正体を知ってしまった俺達は塹壕を駆け上がっていた。勝ち負けなど存在しなかったこの戦争に終止符を打つ為に。さあ走れ!イヌの様に走れ!そしてイヌになれ!
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